トムテのおもちゃ箱

遊びの中で育まれる“子どもたちのみらい”

さまざまな体験を通じた次世代育成
長崎市にある「上長崎地区ふれあいセンター」には、子どもたちやスタッフ、保護者、地域の方々の笑顔があふれていた。この日行われていたのは、ドイツで80年以上も前から愛されている「ティップキック」というサッカーゲームの大会。このイベントを主催する「トムテのおもちゃ箱」では、子どもからお年寄りまで楽しめるアナログゲームを通して、世代を超えた人と人とのつながりを支援している。今回は、その光景をあたたかく見つめる「トムテのおもちゃ箱」代表の髙野幸恵さんにお話を伺った。
「トムテのおもちゃ箱」は、どのような活動をされていますか?

遊びを通じた楽しい時間と空間づくりのお手伝い

「トムテのおもちゃ箱」の代表を務める髙野幸恵さん

「トムテのおもちゃ箱」の代表を務める髙野幸恵さん

私たちは、大きく分けて3つの事業を展開しています。
1つ目は、乳幼児とその保護者を対象とした“おもちゃひろば”の開催や、おもちゃキットの貸し出しによる育児サークル等の支援です。おもちゃは心に栄養を与える大切なもので、親子・子ども同士・親同士をつなぐツールだと考えています。
2つ目は、3歳以上の幼児・学童期の子どもを対象とした“ゲーム会”の開催です。同センターで毎月定期的に開催するとともに、学童保育や小学校行事へも出向いています。世界中のアナログゲームを通して、ゲームの楽しさを伝えています。
3つ目は“カプラひろば”の開催です。“カプラ”とはフランス生まれの木製ブロックで、積み上げたり組み合わせたりすることでどんな形も作れる魔法の板です。ニスや防腐剤加工がされていないので、軽くてとても安全です。みんなでひとつの作品を作る楽しさや、崩れてもへこたれないで積みなおすことの大切さを学べます。
この他にも、“小学生と大人”といった異世代を対象にゲーム大会のボランティアを養成する講座を開催するなど、大人の方に“子どもの育ち”への関心を高めてもらうための取り組みも行っています。

この活動を始められた経緯を教えてください。

人との関係が希薄な時代だからこそ“きっかけ”を与えたい

子育てをする中で、「子どもたちにもっと人と関わる遊びを経験してほしい」という思いが生まれたことから始まりました。
最近は、1人でも十分に楽しめてしまう電子ゲームやインターネットが普及し、今の子どもたちの遊びの主流になっています。子どもたちには、電子ゲームのような人との関わりを必要としない遊びだけではなく、人と関わる楽しさを実感できる遊びをたくさん経験し、人との関わりの中で大きく豊かに成長してほしいと思っています。
これは、電子ゲームを否定し、取り上げるだけでは解決しません。子どもたちが、人と関わることを「楽しい!」と思えるような魅力的な遊びを提供すること。きっかけを作ってあげること。それが大人の役目だと思っています。

活動を続けていく中で、子どもたちの様子に変化はありましたか?

ゆっくりでいいから…成長を見届けて

随所で子どもたちの成長を見ることができます。例えば、初めの頃は勝ち負けにこだわり、ゲームに負けると泣いてしまったり、負けそうになると途中でやめてしまったりする子がいます。小さな子どもには感情のコントロールが難しいのですが、それでもだんだんとできるようになってくる。練習が必要なのです。
続けていく中で、感情のコントロールがすぐにできるようになる子もいれば、半年以上かかる子もいます。保護者の方は、まわりに迷惑をかけるから、と参加を躊躇されることもありますが、子どもの成長を信じて参加してほしいですね。
また、ゲームには多くのパーツが存在し、1つでも無くすとゲームができなくなることから、「物を大切にできるようになった」、「ゲームを通してルールを守れるようになった」という話を聞きます。

「遊び」の魅力は何ですか?
 

遊びの中にも学びがあること、一緒に楽しむ中で生まれる絆

「遊び」を通して学ぶことはたくさんあります。例えば、カードゲームの「神経衰弱」には社会性を育む要素があります。ただ記憶力が良い子が勝てるものではなく、相手の行動に気を配れる子が有利なゲームです。相手を注意深く見ることで、結果として自分のチャンスにつながることを学びます。自分のことだけでなく、相手がいることで学べることがたくさんあります。
そもそも日本では、「遊び」への評価が低いのではと感じています。子どもに与えるとしたら、おもちゃと絵本のどちらが良いかと聞くと、大半の保護者が絵本とお答えになるのではないでしょうか。絵本ももちろん良いものですが、おもちゃでどんな風に遊ぶかというところが重要だと思います。
子どもにとって“遊んでくれた人”というのはとても心に残るものです。お母さんの中には、いつもお世話をしているのに、たまに遊ぶだけのお父さんにおいしいところを持っていかれて悔しい思いをした方も多いのではないでしょうか。子どもは、特別なことを望んでいる訳ではなくて、一緒に楽しみ、向き合ってくれる時間が嬉しいのです。私たちは、そんな時間を作りたいと考えています。人と関わる遊びの中で築かれる絆は、良好な親子関係の形成にもとても有効なものだと思います。

今後の目標や展望を教えてください。

地域を巻き込んで広がる「つながりの輪」

今後は、ゲームを通して地域とのつながりをもっと大切にしていきたいと考えています。地域の中で声かけをしてもらうと、とても安心できますよね。そこに共通の話題や経験があると、お互いの距離がさらにぐっと縮まります。
初対面では話しにくくても、ゲームを通じてなら自然と会話が生まれ、緊張もほぐれます。このような中で人と関わる楽しさを実感し、地域のつながりを深めていってほしいと思います。
今年、小学生を対象に、参加者にゲームのルールを伝えるボランティア“ゲームリーダー”の養成を行ったところ、とても好評でした。また、子どもへの理解を深めてもらうために、大人向けの講座やワークショップなども開催し、活動が少しずつ広がっています。
今後は、この活動をより幅広い年齢層の方々に知っていただき浸透させていくことで、世代を超えたつながりを提供していきたいと思っています。いろいろな方々の関わりをコーディネートする中で、参加者と主催者の垣根を少し低くして、すべてを主催者側がお膳立てするのではなく、みんなでつくり上げていくこと、これが私たちの理想です。



 

遊びの中で育まれる“子どもたちのみらい”

団体名に使われている「トムテ」とは北欧に住む妖精で、サンタの原型ともいわれる。いつもは、子どもたちを守ってくれたり、こっそり仕事を手伝ってくれたりするそうだが、たまにイタズラもする存在だとか。「子どもと一緒に泣いたり笑ったり、いろいろな思いを共有していきたい。」そんな思いのこもった名前となっている。
設立から13年が経ち、この活動は子どもたちに必要なものだという信念をもって駆け抜けてきた「トムテのおもちゃ箱」。そこにはたくさんの方々の支えがあった。みんなの笑顔があった。世代を超えた地域ぐるみの活動によって、ここで遊び、学ぶ“子どもたちのみらい”は明るく照らされていく。
団体プロフィール

トムテのおもちゃ箱

平成16年8月、おもちゃや遊びをツールとした地域のつながり作りを通して、子どもたちの豊かな成長を支援するため、団体を設立。長崎県内を中心に、福岡、佐賀など県外でも、乳幼児期から学童期の子ども及び保護者を対象に活動を展開している。