児童文化サークルさわらび

童話でつなぐ地域の“今”と“みらい”

  • 中年女性

    日本に伝わる伝統的な遊びを体験できる活動は大切だと思います。頑張ってください。

  • 地域の伝統を子どもたちに伝えることは、地域のためにも子どもたちのためにもなると感じました。

    成人男性
  • 成人女性

    私自身もなかなか童話などを知らず、子供にお話ししてあげることができないため私自身が大変興味ある活動に感じました。子供との会話も増えるのではないかと思います。今後も頑張ってください。

  • ネット社会だからこそ、リアルな社会で触れ合いながら日本の童話を伝えるのは、子どものこころの育成に必要でと思います。頑張ってください。

    中年女性
演劇や音楽等を通じた次世代育成
寒波が厳しく、町のいたるところに雪が残る2月、大分県玖珠町にある大乗寺で開催された「豆まき童話学校」を訪れた。“童話の里”である玖珠町で行われたこの節分イベントは、「鬼は~そと~福は~うち~」と豆を投げるだけの行事ではなかった。日本のどこにでもありそうな豆まきの風景に加えて、ここに集う子どもたちは、間もなく始まる「童話」を待っていた。
今回、主催者である「児童文化サークルさわらび」の代表、小野千春さんに同サークルの活動や活動にかける思いについてお話を伺った。
「児童文化サークルさわらび」は、どのような活動をしていますか?

地元に伝わる民話や童話、季節の行事を継承 

「児童文化サークルさわらび」の代表を務める小野千春さん

「児童文化サークルさわらび」の代表を務める小野千春さん

「児童文化サークルさわらび」では、年に6回の「童話学校の開催」、幼稚園などでのパネルシアターや口演童話を通じて、子ども達に、地元に伝わる民話や童話、昔ながらの遊びを体験してもらい、その行事のゆかりや意味を伝え残していく活動をしています。
童話学校は、花まつり、肝だめし、お月見、クリスマス、節分など季節に合わせて開催しています。開催にあたっては、地元の商工青年部の協力を得ながら、行事に因んだお菓子やお茶、団子汁などを準備して、実際に子どもたちに体験してもらっています。
また、スタッフが手作りしたペープサートや紙芝居など、テレビやインターネットにはない、生の良さを間近に感じられるよう努めています。

活動を始めたきっかけや目的を教えてください。

久留島武彦の思いを紡ぎ、童話を通して子どもを育む

大分県玖珠町といえば、“日本のアンデルセン”といわれた口演童話作家「久留島武彦」の生誕地です。
童話学校は、約40年前に「武彦が生み出した童話や民話の継承を年に一度の祭りだけで終わらせるのはもったいない!」との思いから発足されました。
近年は、過疎部において少子高齢化が進み、子ども会の解散をはじめ、子どもを取り巻く町内会、婦人会なども存続が危機的な状況にあり、地域のつながりは希薄化しています。
このような中、再び地域の中で子どもを育てる環境が必要と考え、現在では、幼児~中学生や保護者、高齢者に呼びかけ、多くの世代が「童話」を通じて触れ合える場としても童話学校が活用されています。子どもたちの情操を養うとともに、子育てで悩むお母さんへの支援や地域のつながりを育んでいきたいと思っています。

童話学校で行うことや元となる童話を通して何を伝えたいと考えていますか?

古き良き童話が導く教えや風習・文化に触れて学ぶ

今回は、「まめまきこびと」という大型紙芝居、「ねずみのすもう」というブラックライトで浮かび上がるペープサート劇(ブラックパネルシアター)や節分に因んだゲームなどを行った後、豆まき体験をします。これまで、年に1作品のペースでパネルやペープサートを制作しているので、童話学校には、数えきれないほどの作品があります。
季節の行事にはそれぞれ意味があります。春の「花まつり」は、お釈迦様の誕生日で、“お釈迦様が生まれたとき9匹の龍が現れ甘露の雨を降り注いだ”という伝説に基づくもの。煎じた甘茶をお釈迦様に掛けてお祈りをします。秋の「月見」は、もともと満ち欠けする月の様子に作物の育ち具合を重ねていたそうで、お月様をいとおしみ、秋の収穫の時期に神様へ恵みの感謝をする日なのです。今では、こんな行事の意味や起こりを、学校やそれぞれの家庭で教えて体験するのは難しいでしょう。
私は幼稚園の先生をしていますが、現場の中で民話や童話を伝える時間や機会は少なくなっています。この童話の里で育つ子どもたちには、現代の「楽しい、面白い話」だけではなく、いろんな民話や行事を体験してほしいと思っています。実際に、子どもたちに童話クイズを出したところ、かなり高い正解率でした。さすが、童話の里の子どもたち!と感じました。

これまでの活動を通して嬉しかったことややりがいを感じたエピソードを教えてください。

童話が世代を超えて“受け継がれる”ことを実感

童話学校に通っていた子どもが大人になり、親になって自分の子を連れて来るという人が増えましたね。鼻水を垂らして寺の中を騒ぎまわって叱られていた子も、今ではすっかり立派な大人になっています(笑)。
今は両親共働きが当たり前とも言われる時代。一時は子どもだけがここに来て、終わったら電話で親の迎えを呼ぶ「子守りの場」だったこともありましたが、最近は親子が一緒に童話学校に参加する姿も見られます。ここ大乗寺では、童話学校の冒頭に寺主の説法を聴き、お参りをするのが通例になっていて、毎回、説法の一節を紙にプリントして子どもに渡すようにしています。その説法を、子どもが帰って親に話すのでしょう。その話を子どもと一緒に聞こうという親が増えてきたのでしょうね。
子どもと親が童話学校に来て、その子どもが更に親の世代になって昔を懐かしんでまたこの学校に遊びに来る。そんな様子を見ると「やっていてよかった、これからも続けていこう」と思います。

今後も活動していくうえでの展望、目標はありますか?

世代を超えて地域の人が童話でつながる場を提供

今年は、九電みらい財団の助成金をいただいてポスターを作り、商工会や町報、サロンに協力してもらいながら童話学校の開催を積極的に広報しました。その甲斐あって、参加者がどんどん増えています。秋の“お月見童話学校”で、みんなで団子汁を作ったときは、このお寺に80人もの参加者が集まりましたし、これまで童話学校のことを知らなかった人にも広く認知された一年になりました。
この玖珠町には、童話の里の取り組みを支える団体が16もあります。私たちは、「さわらび」の特徴であるブラックパネルシアターを作り続け、これからも多くの童話を楽しく語り継ぐための準備を整えていきたいですね。また、若い世代の保護者の参加が増えてくれたらとも思います。童話学校に子どもと一緒に参加した親が、子どもを楽しませるための「活動」に目を向けて興味をもってくれたら、更に先の世代へ活動や作品を伝え継いでくれるでしょう。世代を超えて、地域の人が童話でつながる場を提供し続けていきたいです。



 

童話でつなぐ地域の“今”と“みらい”

小野さんの話には、童話を継承することの難しさを感じながらも、童話によって地域ぐるみで子どもたちを育もうとするひたむきな想いが込められていた。後世に童話を伝えるための“今”を大切にし、時代に流されずに童話を守る熱意は、きっと子どもたちの心に響き“みらい”に受け継がれていくだろう。
団体プロフィール

児童文化サークル さわらび

大分県玖珠町に生まれた口演童話作家「久留島武彦」の作品を中心に、昔から伝わる民話や童話を伝え継ぐ活動をしている。ブラックパネルシアターや紙芝居を制作し、巡回わらべ劇場に参加。要望のある幼児施設に出向いて披露も行う。大乗寺で行われる童話学校では、昔から伝わる行事の伝承体験を企画し、シアターや紙芝居を行って地元文化の継承に努めている。

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