NPO法人 抱樸

家族をまるごと支援し、子どものみらいに寄り添いたい

  • 中年男性

    皆さんの今日までの献身的な働きにいつも感動しています。弱い立場、忘れられている方々に寄り添い、光を当てる活動は応援する私たちをも元気にします。

  • 「子供の貧困化」が社会問題となっている今日、家族が周囲の人と寄り添い、互いに一所懸命に今を生き抜くことの大切さを育んでいけるよう、寄り添い支援していく趣旨に賛同します。

    成人男性
  • 成人女性

    なかなか支援が届かない、支援が継続しない領域です。地域の中で繋がりを作りながら当事者と伴走する点もとても素晴らしいと思います。

  • 子どもと家族をまるごと支援するハートと仕組みに共感します。対象者を限定せず生活全体を支援するという、人を中心に置いた取り組みが素晴らしいです。

    中年男性
子どもの居場所づくりや心のケア
子どもたちに広がる貧困問題に向き合いながら、家族をまるごと支援する取り組みを続けている「NPO法人 抱樸」。今回は、「生活困窮世帯」の子どもたちに料理体験や公共施設見学等を経験してもらうイベントに同行し、奥田知志理事長と困窮者支援事業を担当する中間あやみさんにお話を伺った。
活動を始めたきっかけや思いを教えてください。

貧困で失った「生きる力」を取り戻すための支援を

奥田知志理事長と困窮者支援事業を担当する中間あやみさん

奥田知志理事長と困窮者支援事業を担当する中間あやみさん

長年にわたって路上生活者の支援を続けてきましたが、時代の変化とともに、貧困の問題も複雑化してきました。家がなくモノやお金が不足している状況を一般的にホームレスと言いますが、活動を通して、物質面が満たされても充実した暮らしを取り戻せない人たちがいることに気付かされたんです。彼らは人や社会との関係性を失ったために生きる糧や目標を失い、「生きる力」をも失っていました。私たちはこのような状態を“ホームレス”と表現しています。単に家がないという状態は“ハウスレス”であり、“ホームレス”とは異なります。“ホームレス”とは「家族や人、社会とのつながりを失った」状態です。
子どもの貧困は子ども自身の貧困ではありません。彼らを取り巻く環境が招いたもので、時として世代間連鎖を起こします。だから、親や家庭環境もまるごと視野に入れて中・長期的に支援を続けなければ、本当の意味での貧困の改善には至らないと実感しました。そこで始めたのが「子ども・家族まるごと支援」です。

「子どもの貧困」の解決に向けて、どういった支援が必要だと考えますか。

「困窮」の奥に隠れがちな「孤立」を見逃さない

私たちが意識しているのは“経済的な困窮”と“関係性の困窮”の違いです。”ハウスレス”に象徴される経済的な困窮と、”ホームレス”に象徴される社会的孤立による困窮、このふたつを分けて認識しています。経済的困窮というのは、生活費に困っているなど、一言で言えばお金の問題です。対して関係性の困窮とは、社会的に孤立していたり、生きづらさを感じていたりするような状況を指します。例えば、引きこもりの子どもたちは、生活費には困っていないので”経済的な困窮”ではないが、社会とのつながりを失って”関係性の困窮”をしている。そして孤立状態はとても見えにくいです。よってこの”孤立”を見逃さないようにしなければなりません。
路上生活者の支援においては、家に住める段階までサポートしたのちに半数近くの人が再び路上生活に戻ってしまう現実があります。その原因は、社会からの孤立から抜け出せず、生きる意味や働く意義を取り戻せなかったことにありました。
子どもの困窮問題も同じです。物理的支援だけでは“ホーム”を取り戻せません。我々は困窮と闘い、最終的にはホームレス問題と戦わなければならないと感じました。困窮者が増え続けている今の社会では、物質的な支援だけでなく、社会的孤立からの脱出に向けた取り組みが不可欠なのです。

「訪問型相談支援事業」(財団からの助成事業)とは、具体的にどのような活動ですか。

困窮家庭を訪問し、家族をまるごと支援したい

「訪問型相談支援事業」とは、子どもの物質的な不足分を補うだけではなく、家庭を直接訪問し、不足しているものが何かを見極めた上で家族をまるごとフォローする活動です。生きる知恵や知識、人や社会との関係性、その構築のやり方、何気ない日常のふれあい・・・。親から子へ受け継ぐ「社会的相続」というものがありますが、困窮している子どもたちにはこれらが複合的に不足しています。
我々が行うハウスレス・ホームレス支援は、いずれは子どもたちが自立し、自律して生きて行くことを目指すものです。この自立(自律)について「いかに依存先を増やすか」が大事だと、小児科学の専門家である知人が話してくれたことがあります。ここで言う“依存”とは「人がつながる先」のこと。親や学校としかつながっていない、非常に少ない関係性の中で生きている子どもたちの依存先を、2つから5つへ、できたら100にも増やすことを目指そう、という意味です。つながる線が多ければ、1つや2つ切れても放り出されることはありませんからね。抱樸のスタッフもその線のひとつでありたいのです。
訪問型の支援は、拒否されることもありますが、諦めずに通い、訪問先の家族と少しずつ関係性を構築するようにしています。

上記活動を通じて、訪問したご家庭の変化を感じたエピソードはありますか?

訪問活動により、「子育てのやり直し」ができるように

3人の子どもを抱えた母親が、児童相談所から子どもと引き離されそうになったケースがありました。彼女は子どものために昼夜を問わず働いていて、ほとんど家にいられなかったため、子どもたちに食事代としてお金を毎日渡していました。子どもたちは、お金は持っているものの社会的相続を母親からうまく受けられず、風呂にも入らず汚い服も買い換えず、家の中はゴミだらけで足の踏み場もないような生活。その一方で高額なゲーム機を持っている、というようなアンバランスな状態でした。そのうち深夜徘徊を始め、問題を起こして児童相談所が介入することになったのです。
そこで我々は児童相談所に、母親には愛情や働く意欲が十分にあることを説明し、生活改善を指導することを約束して措置を待ってもらいました。我々は彼女に対して、親子で過ごす時間を作るために、一旦仕事を辞めて生活保護を受給することを提案し、生活保護の申請の手続きを支援。また、彼女に一から料理を教え、家の中の片付けも一緒に行い、「子育てのやり直し」ができるような生活環境を整える支援を行いました。
今では子どもたちの身なりも整い、進学してしっかり勉強しています。母親もパートなどで再度働き始めて日々の生活も安定してきました。訪問型支援により、家族をまるごと支援したからこそ「何気ない日常」が家庭に生み出され、子どもたちが失った“ホーム”を取り戻すことができたのです。

今後の展望や目標を教えてください

子どもを困窮させない、孤立させない社会作りを目指して

大人にとっての10年と、子どもにとっての10年は大きく違います。彼らの人生のステージが変化し成長する過程において、我々は「人生の伴走者」であり続けたい。SOSをなかなか出さない、出してくれない家庭に対しても決して諦めず、学校など関係機関と連携して中・長期的視点でフォローを続けることを目指しています。
子どもたちに関わる存在を親や学校だけに求めるのではなく、赤の他人同士でも家族なれる社会をどう育てるかを考え、広い展望をもって、子どもを困窮させないための社会のあり方に一石を投じていきたいと考えています。



 

家族をまるごと支援し、子どものみらいに寄り添いたい

“ホームレスを生まない社会”の創造を目指して活動する「抱樸」。それは路上で生活する人だけを指す言葉ではなく、家の中に居場所がない子どももまた“ホームレス”であると説く。奥田理事長と中間さんの目は、子どもたちの今と将来をしっかりと見つめていた。
家族をまるごと支える「抱撲」は、みらいに向かって、これからも「人生の伴走者」として、子どもたちに寄り添い続ける。
団体プロフィール

NPO法人 抱樸

1988年、野宿労働者の調査で手作りのおにぎりをホームレスの人々に手渡したのが活動の始まり。有志による炊き出しが始まり、「北九州越冬実行委員会」として事務局体制を整備、次第にパトロールの範囲や参加者が増加。2000年にNPO法人として認証を受け、団体名を「北九州ホームレス支援機構」に改名。
その後、活動25周年を機に、2014年に「抱樸」に改め、新たなホームレスを生まないため、さまざまな包摂的支援を、北九州市、福岡市、中間市を中心に行う。
「抱樸」とは「樸(製材される前の原木)のままを抱く」の意で、ありのままの姿を受け止めた上で、共に生きていくことを意味している。

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